「何かできないか」という思いを行動に 自身の経験を活かし、能登の災害ボランティアへ
能登半島地震をきっかけに、川崎重工業では社員による災害ボランティア活動が行われています。会社のボランティア休暇制度を活用し、これまで5回、能登での活動に参加した佐藤明紀さん。航空自衛官としての経験を持つ佐藤さんは、現地ではリーダーとして、参加者の安全管理や作業の指揮、被災された方との調整などを担いました。
「何かできないか」という思いから始まった活動を通じて、佐藤さんが見た能登の現状、そして「復興」について伺いました。
Q1.能登での災害ボランティアに参加したきっかけを教えてください。
能登半島地震が発生したとき、以前から仕事で日本海側を飛ぶ機会があり、能登半島を上空から見ることも多かったので、身近に感じていました。
そのため、地震が起きたときから「何かできないか」という思いがありました。
そんな中、会社の中で「カワサキボランティアネットワーク」が立ち上がり、能登での災害ボランティアを募集していることを知りました。そこで上司の部長に参加していいかと相談し、手を挙げました。
「行きたい」というよりは、「行かなければ」「何かしたい」という思いがあって、それを具体的な行動に移せる場が会社にあった、ということだと思います。

Q2.能登では、具体的にどのような活動をされたのでしょうか。
これまで5回、能登でのボランティア活動に参加し、そのうち4回リーダーを務めました。
現地では、社会福祉協議会などのボランティアセンターから活動場所を割り振っていただき、被災された住宅の片付けなどを行いました。
家の中に残された家具や家財について、被災された方に「残すもの」「処分してよいもの」を確認しながら整理します。
リーダーとしてメンバーをグループに分け、作業場所や時間を配分し、安全に作業ができる環境を整えることが主な役割です。
特に意識していたのは、安全面です。被災した家屋は、写真で見る以上に危険な状態になっています。余震などがあった場合にすぐ逃げられるよう、まず動線を確保してから作業を始めるようにしていました。
Q3.これまでのご経験が、現地での活動に活きた部分はありますか。
私は、航空自衛隊のパイロットとして勤務後、川崎重工業株式会社に入社。現在は、岐阜工場にて社内飛行試験のパイロットとして勤務しています。
自衛隊では、限られた情報の中で状況を判断し、人を動かしながら、安全を確保して任務を遂行することが求められます。
能登でのボランティアでも、現場の状況を見ながら「どこから作業するか」「誰をどこに配置するか」「今の作業を続けて大丈夫か」といった判断が必要になります。
もちろん災害現場と自衛隊の活動は全く違いますが、前職で身につけた、周囲の状況を見て判断し、人を動かすという部分は活かせたと思います。
私は体が大きいわけでもなく、力仕事で大きく貢献できるタイプではありません。だからこそ、自分がこれまで身につけてきた能力を別の形で活かせるのではないかと思いました。

Q4.活動の中で、特に印象に残っていることはありますか。
被災された家の中に、アルバムなどの思い出の品が残されています。
私たちからすれば「片付けるもの」に見えても、ご本人にとってはかけがえのないものかもしれません。
ですから、何でもこちらの判断で処分するのではなく、「これは残しますか」とひとつひとつ確認することが大切でした。
ボランティアは、単に物を運び出したり、家を片付けたりするだけではありません。その人が何を大切にしているのかを聞きながら、一緒に作業することが重要なのだと感じました。
Q5.何度も能登を訪れる中で、被災地の変化をどのように感じましたか。
道路上のがれきや倒壊した建物など、目に見える部分の片付けは少しずつ進んでいきました。
一方で、何度か訪れるうちに「更地が増えている」と感じるようになりました。
最初は建物があった場所が、次に行ったときには更地になっている。もちろん、危険な建物を解体することは復旧のために必要なことです。
ただ、「復旧」と「復興」は違うのではないか、と考えるようになりました。
建物を片付け、道路を直すことは復旧です。その先に、そこに人が戻り、地域の暮らしや仕事が戻っていくことが「復興」なのではないかと思います。
Q6.ボランティアを受け入れる側の課題について、感じたことはありますか。
ボランティアに行けば行くほど、単純に「人数が多ければいい」ということではないと感じました。
例えば、20人のボランティアがいても、その人数を一度に受け入れられる現場ばかりではありません。
私たちはある程度まとまった人数で現地に入っていたので、「この人数をどこに投入すればいいのか」を見極めることが大切になります。
一方で、ボランティアセンターでは受付や活動場所の調整などに時間がかかります。限られた時間の中で、できるだけ多くの作業をするためには、現場の状況を見て、適切な人員を適切な場所に割り当てる仕組みが必要だと感じました。

Q7.川崎重工業では、社員のボランティア活動をどのように支援しているのでしょうか。
会社事務局:
会社としても、社員が社会貢献活動に参加することを応援しています。
能登半島地震と奥能登豪雨への対応では、川崎重工業として計6回、延べ120名がボランティア活動に参加しました。
また、社員が活動に参加しやすいよう、ボランティア休暇制度を設けています。従来は年間5日間でしたが、能登での活動実績などを踏まえて制度を拡充し、現在は最大10日間取得できるようになっています。
今回の活動についても、社員が安心して参加できるよう、会社として後押ししてきました。
Q8.佐藤さん自身、ボランティアを経験して感じたことを教えてください。
活動を終えたときに「やり切った」という達成感を感じたことは、実は一度もありません。
むしろ毎回、「もっとできたのではないか」「こうした方がよかったのではないか」と考えながら帰っています。
前回の経験を次の活動に活かして、少しずつ改善していくのですが、それでも「まだ足りない」と感じます。
一方で、現地に行くことで、自分自身の物事の見方はかなり変わりました。
被災地にいると、「自分が生きている」というよりも、「自分は生かされている」ということを強く感じます。
普段の生活ではなかなか意識しないことですが、今こうして生活できていること自体が、当たり前ではないのだと感じました。そういう意味では、ボランティアは自分自身が成長する場でもあると思います。
Q9.今後、能登に対してできることは何だと考えていますか。
正直なところ、「これをすれば復興につながる」という答えは、まだ分かりません。
報道などを見て、「その後どうなったのかな」と思って調べることがあります。でも、調べてみると「あまり変わっていないな」と感じることもあります。
では、一人の国民として何ができるのかと言われると、正直よく分からない部分もあります。
ふるさと納税など、自分にできることはしています。ただ、それだけではなく、被災地の方々が本当に何を求めているのかを知ることが大切だと思います。
Q10.今後、能登を訪れることも考えているそうですね。
具体的に決めているわけではありませんが、宿泊施設なども少しずつ戻ってきているので、今度は旅行という形でも能登に行ってみたいと思っています。
「旅行」という言い方が適切か分かりませんが、実際に現地を見て、そこで旅館などを営んでいる方のところに泊まる。
そういう方々は、そこでなんとか頑張っていこうという意思を持って営業を再開されていると思います。
そうしたところに、少しでもお世話になりに行くことも、今の自分にできることの一つなのかなと思います。
Q11.最後に、能登の復興を応援したいと考えている全国の企業や個人、そして地域経済団体に向けて、メッセージをお願いします。
まず、能登に関心を持ち続けることが大切なのではないかと思います。
災害が起きた直後は、たくさんの人が関心を持って、いろいろな支援が集まります。でも、時間が経つと、どうしても報道される機会も少なくなります。
私自身も、能登のその後がどうなっているのかと思って調べることがあります。だからこそ、忘れないということは大事だと思います。
そして、もし「何かしたいけれど、自分に何ができるか分からない」と思っているのであれば、まず現地に行ってみるのも一つだと思います。
ボランティアでなくても、現地に行って、泊まって、食事をして、地域の人と接する。そういうことでも、現地の方々を応援することにつながるのではないでしょうか。
私自身、能登でボランティアをして、何かを「してあげた」という感覚はありません。むしろ、自分自身がいろいろなことを感じ、考えさせてもらったという気持ちの方が強いです。
だから、迷っている人がいるのであれば、まず一歩踏み出してみてほしいです。そこで自分が何ができるのかを考える。それが、次の行動につながっていくのではないかと思います。
【プロフィール】
・航空宇宙システムC 航空宇宙品質保証本部完成機品質保証部 飛行検査課 課長
佐藤 明紀さん
愛知県小牧市出身。航空自衛隊のパイロットとして勤務後、川崎重工業株式会社に入社。現在は、岐阜工場にて社内飛行試験のパイロットとして勤務。能登半島地震および奥能登豪雨災害の支援活動に計5回参加し、多くの回で現場リーダーを担当。
・川崎重工業株式会社
航空宇宙システム、鉄道車両、エネルギー、モーターサイクルなど幅広い事業を展開する総合重工メーカー。令和6年能登半島地震を契機にカワサキボランティアネットワークを立ち上げ、能登での復興支援活動や地域のボランティア活動等に取り組んでいる。
インタビュー:2026.7.30